「サイレントキラー」と呼ばれる卵巣がん。自覚症状がなかなか表れずにじわじわ進行する ため、自覚症状が表れた時はかなり進行していることが卵巣がんの大きな特長であり、 婦人科の悪性腫瘍の中では最も死亡率の高い腫瘍です。1988年には女性10万人に7.4人の 罹患率(病気にかかる率)でしたが、2014年には10.2人に達すると予測されており、日本では 年々増加の一途をたどっており、30代から高齢者と幅広い層に発症しています。卵巣がんの 罹患率が上がる要因として、晩婚化による出産年齢の上昇、未婚、不妊症などが挙げられて いますが、明確な発症理由は解明されていません。予防法がないがんであることからも、 定期的に検査を受けておくことがとても大切です。
卵巣がんと診断された場合、どの程度がんが転移しているか検査が行われます。その結果、がんの広がりに応じて治療方法が変わってきます。このがんの広がりの程度を病期といいます。 手術前に画像診断だけで転移を見つけることは難しいので、病期は手術所見(症状を把握するために画像所見、手術所見、病理所見などがある)によって決められます。手術中の転移の有無にあわせ、手術後にも摘出物を病理検査(手術や検査で採取された臓器、組織などを顕微鏡等で診断すること)し、病期が決定されます。病期別におおまかに分けると、I・II期は手術によってがん細胞を完全に切除できますが、手術だけで完全にとり除くことができないIII、IV期は進行がんの範囲に入ります。
Ⅰ期 | がんが片側、あるいは両側の卵巣にだけにとどまっている状態。 |
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Ⅱ期 | がんが卵巣の周囲、つまり卵管、子宮、直腸、膀胱などの腹膜に転移している状態。 |
Ⅲ期 | がんが卵巣の周囲(骨盤内)の腹膜だけでなく上腹部にも転移、あるいは後腹膜リンパ節に転移している状態。後腹膜とは、膀胱の背側にある腹膜と背骨や背筋との間の大動脈、下大静脈、腎臓、尿管などのある場所。後腹膜リンパ節は大動脈周囲の傍大動脈リンパ節と、骨盤内の骨盤リンパ節に分けられます。 |
Ⅳ期 | がんが腹腔外に転移しているか、あるいは肝臓に転移している状態。 |
治療方法には外科療法、放射線療法、化学療法がありますが、卵巣がんの治療を受ける場合は、「標準治療」「臨床試験中の新しい治療」から選ぶことになります。
最も有効と認められている治療は「標準治療」と呼ばれますが、難治性のがんでは「標準治療」では満足できる結果をもたらすことができない場合が多いのが現状です。一方で、現在さまざまな新しい治療法も研究されており、担当医だけではなく、多くの専門家の管理のもとで「臨床試験」が行われる新しい治療方法も取り入れられています。これが「臨床試験中の新しい治療」といわれるものです。
外科療法
卵巣がんは手術によって診断が確実にできます。また、がん細胞のタイプや広がりの程度によって、その後の治療方針が決まりますし、卵巣がんの手術は転移の状態、年齢などによって異なります。
(1)卵巣の切除
片側の卵巣、卵管だけを切除する場合と両側の卵巣、卵管、子宮を含めて切除する方法があります。
(2)大網(たいもう)切除
大網(たいもう)とは胃から垂れ下がって、大小腸をおおっている大きな網のような脂肪組織です。大網は卵巣がんの転移が最もよく起こる組織であり、切除しても実害はありません。
(3)後腹膜リンパ節郭清(かくせい)
後腹膜リンパ節は卵巣がんの転移が起こりやすい部位のひとつです。転移が疑われるリンパ節を採取して検査することをサンプリングといい、リンパ節とリンパ管を系統的にすべて切除することをリンパ節郭清(かくせい)といいます。
(4)腸管などの合併切除
腹腔内に転移をした部分をできるだけ切除するため、大腸、小腸、脾臓などをがんと一緒に切除することもあります。
化学療法
抗がん剤を使う治療を化学療法といい、内服、あるいは静脈注射で投与します。また、直接腹腔内に注入されることもありますが、いずれの場合も、抗がん剤は血液中に入り全身に広がって作用するため、抗がん剤が比較的よく効くがんの卵巣がんでは、手術でとりきれなかったがんに対する治療として、抗がん剤が有効な治療法とされています。抗がん剤はがん細胞に強い障害を与えますが、正常の細胞にも影響を与えて副作用を起こしますが、効果がある限りこの治療法を用います。卵巣がんによく使われる抗がん剤の副作用としては、血液中の白血球と血小板の減少、貧血、吐き気や嘔吐、食欲の低下、脱毛、手足のしびれなどが起こります。
放射線治療
高エネルギーX線を体の外から照射する外照射と、放射性リンの溶液を腹腔内に注入して内部から腹膜の表面を照射する2つの方法があり、最近は化学療法が主な治療法とされています。しかし、脳に転移した腫瘍に対しては放射線治療が行われます。
※費用概算は大まかな目安。健康保険適用で、自己負担3割の場合の自己負担額
【ケース1】 手術のみ 通院+検査+入院(10~25日間) |
約28万円~32万円 |
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【ケース2】 手術と化学療法 通院+検査+入院(17~25日間) |
約48万円~55万円 |
【ケース3】 化学療法(7日間)のみ |
約8万円~13万円 |