成人女性の乳房は、乳首を中心に放射状に乳腺が約15~20個並んでいます。それぞれの乳腺は小葉に分かれ、乳管で繋がっています。乳がんの約90%はこの乳管から発生することから「乳管がん」と呼ばれています。また、他にも小葉部分から発生する乳がんも全体の約5~10%あり、こちらは「小葉がん」と呼ばれます。「乳管がん」「小葉がん」の区別は、乳がん組織を顕微鏡で検査するとわかります。
乳管や小葉におさまっているものは非浸潤がん(リンパ管や血管に侵入していないため転移がない)、小葉からはみ出ているものは浸潤がん(周囲の健康な組織まで増殖している)に区別し、進行度によって治療の頻度や内容に差が出てきます。乳がんにかかる女性の割合は30歳代から徐々に増加し、50歳前後がピークになり、その後は減少傾向にあります。
0期 | 乳がんが発生した乳腺の中にとどまっているもので、きわめて早期の乳がんであり、「非浸潤がん」ともいう。 | |
Ⅰ期 | しこりの大きさが2cm(1円玉の大きさ)以下で、わきの下のリンパ節には転移していない、乳房の外に広がっていない段階。 | |
Ⅱ期 | IIa期 | しこりの大きさが2cm以下で、わきの下のリンパ節への転移がある場合、または、しこりの大きさが2~5cmで、わきの下のリンパ節への転移がない場合。 |
IIb期 | しこりの大きさが2~5cmで、わきの下のリンパ節への転移がある場合。 | |
Ⅲ期 局所進行乳がん |
IIIa期 | しこりの大きさが2cm以下で、わきの下のリンパ節に転移があり、しかもリンパ節がお互いがっちりと癒着していたり、周辺の組織に固定している状態。または、わきの下のリンパ節転移がなく、胸骨の内側のリンパ節(内胸リンパ節)が腫れている場合。あるいは、しこりの大きさが5cm以上で、わきの下あるいは胸骨の内側のリンパ節へ転移がある場合。 |
IIIb期 | しこりの大きさや、わきの下のリンパ節への転移の有無にかかわらず、しこりが胸壁にがっちりと固定している、皮膚にしこりが顔を出したり、皮膚が崩れたり、皮膚がむくんでいるような状態。炎症性乳がんもこの病期に含まれる。 | |
IIIc期 | しこりの大きさにかかわらず、わきの下のリンパ節と胸骨の内側のリンパ節の両方に転移のある場合や、鎖骨の上下にあるリンパ節に転移がある場合。 | |
Ⅳ期 | 体の中で遠い部分にある臓器に転移している場合。乳がんの転移しやすい臓器は骨、肺、肝臓、脳など。 | |
再発乳がん | 乳房のしこりに対する初期治療を行った後、乳がんが再び発症することを「再発」といいます。通常は他の臓器への転移を指し、 IV期の乳がんとあわせて「転移性乳がん」と呼び、手術をした乳房の領域に発症した場合は「局所・領域再発」と呼んで区別します。 |
乳がんの最も基本的な治療は手術ですが、治療法には手術、放射線照射、抗がん剤による化学療法、ホルモン療法などがあります。
体の中にできた悪い細胞を一度にすべて取り除くことが根治への近道ですが、他の治療法を加えるにしても、手術によりがんの量を少しでも減らしたほうが、他の治療を成功させる確率が高くなるため、手術が最も有効とされます。
標準的な手術方法である「乳房温存術」には、温存術の中で最も切除する範囲が広い「乳房扇状部分切除術」、しこりとその周辺を部分的に切除する「乳房円状部分切除術」、しこりだけを取る「腫瘤摘出術」があり、乳房を切除する切除術にも、「胸筋温存乳房全摘術」「単純乳房切除術」「皮膚温存乳房切除術」など、さまざまな方法があります。 さらに最近では、化学療法やホルモン療法、放射線照射法が進歩したことから乳がんの手術に対する考え方が変わり、手術主体ではなく、患者さんの病態に応じて治療法が最も効果を発揮するように組み合わせ、患者さんにとって最適な治療を行うケースが多くなってきています。
【症状に寄り添った治療法】
術前治療
大きめのしこりを小さくして乳房温存手術が可能かどうかを検討する場合、手術前に化学療法やホルモン療法を行います。
外科手術
手術法は「乳房切除術」「乳房温存手術」に分けられますが、この選択は、しこりの大きさや広がり、悪性度、リンパ節への転移個数などによって最適な手術方法を選択します。除去したがん細胞を手術中に病理検査し、手術だけでは局所のがん細胞を取り除くことが難しいと考えられる場合は「乳房切除手術」になります。
術後治療
さらに、手術後の病理検査で再発の可能性が高いとみなされた場合は、放射線照射、化学療法、ホルモン療法などで、治療を継続します。
転移・再発
数年後に再発・転移した乳がんは、薬物療法による長期戦となります。長期戦だからこそ、患者さんの体力・気力を維持し続けることがとても重要です。治療中は焦らず、無理せず、あきらめずの気持ちをもち、気長にがんの根治をめざしましょう。
※費用概算は大まかな目安。いずれも3割負担の場合
乳房温存療法 通院+検査+入院(7日間)代+胸帯代 |
約25万円~45万円 |
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放射線療法 (25回) |
約9万円~ |
ホルモン療法 抗エストロゲン剤を5年間 |
約26万円~ |
ホルモン療法 LH−RHアゴニスト製剤を2年間 |
約40万円~ |